HDMI

オーディオ関連のメーカーにサエクコマース(SAEC)という会社があります。古い人間にとってはSAECと言えばトーンアームを思い浮かべるでしょうか。あ、「トーンアームって何?」と言われそうなので解説しておきますと、アナログプレーヤのターンテーブル(レコードを乗せて回転するやつ)の右側に、針(カートリッジ)が付いてるアームがありますよね? トーンアームというのはアレです。で、そのアナログプレーヤ自体が廃れてしまったいま、SAECの主力製品は、同社のサイトの製品情報を見る限りでは各種ケーブルのようです。

その製品情報のなかで一際目をひいたのが高音質HDMIケーブル SH-1010です。「高音質」HDMIケーブル? なんじゃらほい? 希望小売価格を見ると尋常ではありません。0.7mのHDMIケーブルが36,225円。私が家で使っているHDMIケーブルはその10数分の1のお値段です。まあ、オーディオの世界は、同機能(あくまで「同機能」、「同性能」とは言わないでおく)のケーブルでも、下は数100円から、上は下手すると数10万円まであったりする世界ですから、10数倍程度の値段差はどうってことないのかも知れません。

んが、このケーブルはHDMIケーブルなわけです。
HDMIって確か音声も含めて完全にデジタル伝送だよなあ」
「高画質と言わず高音質? まあSAECはオーディオ系のメーカーだしなあ」
「デジタルデータが、ケーブルを流れる間にどうやって『高音質』だの『低音質』だのなるんだ?」
音質(画質も)が変化する理由として考えられるものとしたら、安いケーブルだとデータ伝送時に誤りが発生して、それの訂正が追いつかず適当に補完する場合でしょうか。あとは何か考えられるでしょうか? でも、そこらへんで売っている安物のHDMIケーブルだからといって、そんなに誤りが発生するんでしょうか? だとしたら認証を通って「HDMI」ロゴが付いている製品なのにお粗末のような気もします。

なんか、こういう製品が世間的に認められているとしたら、「高画質USBケーブル」だの「高音質LANケーブル」だのいうのもアリかな、と思ってしまうのですが。

デジタル伝送の世界だと「高品質のケーブルを使うと誤りが少なくなる」ということは言えるかもしれませんが、その誤りが許容範囲内だったら完璧に訂正されて、送信側が送ったデータが1ビットの違いも無しに受信側にとどくわけで、画質や音質がどうのこうの、という話にはならないような気がするのですが。まあ、「受信側で行う誤り訂正は重い処理なので、それが頻繁に動くと、受信側装置のアナログ回路に影響を及ぼして画質や音質が低下する」という理屈はつけられなくはありませんが……。

一方、アナログ伝送の世界だと、ケーブルによって音が違ってくることは無いとは言い切れません。とは言え、以前ある人の家で1メートル1万円のケーブルと10万円のスピーカケーブルを付け替えて聴かせてもらったことがありますが、私にはまったく違いがわかりませんでした ←私の耳が悪いだけ、という可能性もあります。

そういえばこんなことがありましたっけ。私がまだ学生のころ、友人が「このあいだ、スピーカケーブルを高いのに交換したら、めちゃくちゃよくなったよ。いままでのケーブルとはステレオ感がまったく違うんだ」というので友人宅におじゃまして聴かせてもらいました。
「な、ぜんぜん違うだろ?」
「……?」
「なんと言うか、この音の広がりというか、ステレオ感が前のケーブルとは雲泥の差だし」
「……?」
「しかし、ケーブル1本……あ、左右で2本か。それだけでこんなに違うとは思わなかったよ」
「……?」
「ん? どした? あまりの凄さにかんどうしたか?」
「……あのさ」
「ん? なんだ?」
「……ちょっと言っていい?」
「だからなんだ?」
「これってさあ、位相反対だろ? ケーブル繋ぎ間違えてるよ」
「なにそれ?」
「だからケーブルの赤と端子の赤をちゃんとつないでる?」
「そのはずだけど」
「ええと、ほら、やっぱりここ。ケーブルの赤と端子の黒をつないでる。ええと、正しく繋ぎなおして、と。ほら、これが正常な音」
「あれ? ステレオ感無くなっちゃったじゃない」
「いや、だからこれが正しいの」