オーディオ装置を新調してみた(その1)

うちでいままで使っていたオーディオ装置、ほとんどが20年以上も前に買ったような、かなりの年代ものでした。さすがにガタがきていたこともあって、レコードプレーヤーとスピーカーを残して、あとは新しくすることにしました。で、私の知っているオーディオ関係の知識と言えば、20年以上も前のもので、最近のことはさっぱりわかりませんので、まずは勉強してみることにしたわけですが……。

「なんか、知らないメーカー、特に外国のメーカーが多いなあ」とか、
「知ってるメーカーも、みんなAV系の方にシフトしちゃってるみたい」とか、
DENONって『デンオン』って読んじゃダメなの?」とか、
「それにしても、怪しげなオカルトグッズがいっぱい売ってるし。なんでたかが電源タップがウン万円もするんだ」とか、

知らないことだらけです。以前、高音質HDMIケーブルなるものについて書きましたが、あんなものはかわいいもので、今の「オーディオ界」にはオカルトグッズがあふれているようです。

私が学生の頃、いまからウン十年前には、音楽のソースと言えばまず真っ先に挙げられたのがレコード(LP)でした。これを再生する装置がレコードプレーヤーですが、この扱いはかなりデリケートです。レコードプレーヤーは、レコードに刻まれている溝を針でなぞって、その針の機械的な振動を電気信号に変換します(まあ、この変換を行う部分は「カートリッジ」と呼ばれる、プレーヤーに取り付ける別な部品ですが)。逆に、電気信号を機械的な振動(ひいては空気の振動)に変換するのがスピーカーです。レコードプレーヤーとスピーカーは、音質に大きな影響を与えます。大雑把に言えば、これらの値段と音質は単調増加の関係にあると言っていいと思います。まあ、数十万円以上のボッタクリ領域(という表現は語弊があるかも知れないけど)では、必ずしも単調増加とは言えなくなるとは思いますが。なお、レコードプレーヤーやスピーカーに比べれば、電気信号を増幅するアンプの音質へ与える影響はずっと小さいと言えます。

レコードプレーヤーは振動にも弱く、レコード再生中にプレーヤーをポンポン叩くと、その音がスピーカーから出てきたりもします。レコードプレーヤー全盛期には、振動を抑えること(だけとは限りませんが)を目的に、さまざまなアクセサリが発売されていました。こういうアクセサリは作るのも(プレーヤー本体に比べれば)簡単で、それこそたくさんのものがありましたが、それなりに音質に変化があったり(無かったり)しました。

さて、その後、時代はLPからCDへと移り変わりました。CDプレーヤーは、レコードプレーヤーとは本質的にまったく違う原理で、CDに格納されているデジタルデータを読み出して、それをDAコンバータでアナログ信号(電気信号)に変換します(って、こんなこと、いちいち書かなくても、みなさん知ってますよね)。CDプレーヤーにおいて、音質を左右するのは、基本的にはDAコンバータと、それ以降のアナログ回路の部分と考えられます。もちろんそれより前の、CDからデジタルデータを読み取る部分でのエラーの多寡とその訂正処理で、多少音質が変化することも考えられなくないのですが、そもそも普通の再生環境において読み取りエラーは発生しないと聞いたことがあります(ウラは取っていません)ので、無視できるものとします。いずれにしても、CDプレーヤーにおける音質の差は、レコードプレーヤーにおける音質の差よりはるかに小さいと考えられます。

ところで、CDプレーヤーは本質的にレコードプレーヤーとは比較にならないほど振動に強い(はず)です。もちろん、CDからデータを読み出すことができないほどの振動を与えたら音は途切れてしまうでしょうが、その状態を「音質が悪い」とは普通表現しないと思います。しかも、多少の読み取りエラーに耐えるように、データはある程度先読みされていると思われます。そんなわけで、いままでレコードプレーヤー用にアクセサリを作ってウハウハ状態だった(かどうかは知りませんが)アクセサリメーカーは重要なメシの種を失うことになってしまいます。そんな中、一つの単語が救世主のように現れました。それは「ジッター」です。

CD音源に対して、
「このケーブルを使うと音が変わる!」とか、
「この共鳴なんちゃら(←忘れた)をCDプレーヤーに貼ると音が変わる!」とか、
マイナスイオンをふりかけると音が変わる!」とか、
これははぜんぶ「ジッター」という単語で説明できる(るらしい)のです。ジッターは時間軸方向のゆれです。一定間隔(サンプリング周期)で波の振幅を数値化したものが音のデジタル化なのですが、それをアナログ信号に戻すときに「一定間隔」にゆらぎがあって「一定間隔」でなくなってしまったら、ということです。そこにゆらぎがあったら、それはまあ音質に影響を与えるでしょう。ただ、どの程度のジッターがあったら人間の耳に聞こえるのか、という検証は必要でしょうけど。で、CDをはじめとするデジタルデータの音源で音質が変わるのは、ジッターのせいなんだそうです。で、高いケーブルを使ったり、マイナスイオンをふりかけたりすると、ジッターが減って、音が良くなるんだそうです。

いまの、高級オーディオ界のトレンドには、USBメモリSSDに、CDなどからリッピングした音楽データを入れておいて、ネットワークメディアプレーヤーのようなもので再生する、なんてのがあるようです。そこには「回転系の宿命だったジッターから解放」なんて言葉が添えられていたりします。確かに、USBメモリSSDなら回転するところがどこにもありませんからね。でも、よくよく考えてみるに、レコードプレーヤーでLPを再生していた時代ならともかく、CDプレーヤーでCDを再生したとき、CDの回転のムラがジッターの要因になり得るんでしょうか? 普通に考えたら、CDプレーヤーの動作は次のようになっているんじゃないか、と思うのですが。いや、私はCDプレーヤーの内部の動作をよく知らないのですけど。

  • CDからデータを読み出し(先読みして)、バッファに格納する
  • バッファからデータを読み出し、DAコンバータに送る

これらのうち、前段はCDの回転ムラの影響を受けることは受けるでしょう。でも、バッファには、リトライしたり誤り訂正を行った「正しい」データが入るはずです。で、後段。こちらは、CDの回転ムラとか無関係に、プレーヤー内部で生成したクロックにしたがってデータをDAコンバータに送ると思われます。これならば、回転系がジッタの発生源になる、ということは無いはずです。つまりこれは前段と後段が非同期で動作している場合です。もしかして世の中のCDプレーヤーは同期して動作しているのでしょうか。ううむ。

[長くなったので「オーディオ装置を新調してみた(その2)」に続く]