御中
知り合いの子供が大学受験とのことで、なぜか願書のチェックをしていた私。
「ああ、この封筒のあて先のところ、『行』の文字を線で消して横に『御中』って書いて。面倒くさいけどそれが日本のしきたりだから」
などと言いつつ、他の大学の封筒も見てみると、中には、
○×大学入試係 御中
とあらかじめ印刷されている大学もちらほら。いちいち線で消して『御中』と直さなくてもいいから楽といえば楽ですが、こういうことが出来るのは、学校の願書の送付用封筒だから、という特殊事情によるものでしょう。
話は変わりますが、正月に実家に帰ったときに、親の携帯電話の機種変更をしてきました。いままでSoftbankの2Gの電話機だったのですが、これのサービスが今年の3月で終了するらしく、機種変更に迫られていました。しかしSoftbankには適当な機種が見当たらず、MNPでNTTドコモに移行して「らくらくホン」にする、という形になりました。その機種変更の手続きは、本人たちに行ってもらうと、当人がわけがわからないままにいらないオプションとかをてんこ盛りにされたり、とかいろいろと危険性が高いので、私が代理で行くことにしました。で、代理で手続きする場合には委任状が必要になります。事前に委任状の用紙は印刷してあったので、まずは父親にその用紙に記入してもらうことにしました。
「ほれ、書いたよ」
と渡された委任状を確認してみると、あちこち抜けているところが……父親は長年事務仕事やっていた(というか今でもやっている)はずなのに……
「これでいいだろ」
書き足された委任状を再度見てみると、
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 行
「あ、あのさ、ここなんだけど……」
と「行」の文字を指差すと、
「ん? なんだ?」
「いや、だからここ」
「だからどうした?」
「……」
「???」
「いや、だから、こういうところって『御中』って直すもんじゃ……」
「……」
「じゃあ、こっちで直しておくよ。『委任状は自筆で書け』って注意書きがあるけど、そのくらい大丈夫だろうし」
「そんなもん、誰も見ちゃいないって。別にそのままでいいって」
「……」
「いちいちそんな面倒くさいことすること無いんだって」
「……」
「そんな細かいこといちいち気にすること無いんだって」
そういえば、似たような話を思い出しました。その昔、職場にて上司から、
「この検収書、先に署名しておいたから、おまえが見て問題が無いようだったら、先方の営業に渡しといて」
で、その検収書を見ると、
○×△株式会社 行
私は「行」の文字を指差しながら、
「あの〜、ここなんですけど」
「ん? どうした?」
「ですから……」
「そこがどうしたんだ?」
「私のほうで書き加えておいていいですか?」
「何か不備でもあったか?」
「だから『御中』と直しておいていいですか?」
「なんだそりゃ?」
「いや、こういうところは『御中』に直すのが……」
「んなもんいいんだよ、いちいち。いいからそのまま渡せ」
「いや、でも、渡すのは私ですし」
「くだらん。誰もそんなとこ見てないって。だいたい、向こうから見たらこっちが客なんだぞ。客のほうがへりくだる必要がどこにあるんだよ」
その上司は、私が見た範囲では、その後も頑なに「御中」に直すことをしませんでした。本当はいけないのですが、私は自分で直してから渡していましたが。
返信用の封筒だの書類だのに自分の宛名を書くときに「行」と書いて、相手にそれを「御中」だの「様」だの直させる、という習慣(作法?)は、たしかに「くだらない」と言えば「くだらない」と言えなくもないかも知れません。でも、頑なに「御中」にしないのって、なぜなんでしょ? 「くだらない」「面倒くさい」「誰も見ていない」「そんなことしなくたって別に問題なんか起きないんだから」そんな理由しか聞いたことがないんですけど、そんな言い訳するくらいなら、ちゃちゃっと直したほうが早いように思えるのですが。謎です。